Abstruct of Reserch
= 呼吸するメディア〜演奏する身体とマルチメディアの融合による音楽表現の拡張〜=
Abstruct

呼吸するメディア
〜演奏する身体とマルチメディアの融合による音楽表現の拡張〜

TAMAMI TONO
SFC Institute Keio University 1999
I. 研究目的
 本研究は芸術表現に不可分の身体性とメディアの関係を科学的且つ実践的なアプローチをもって検証し、新しいメディアの開発とともに、芸術における伝統的資産と手法を踏襲する創造的表現を追求するものである。
 ここでは、おもに伝統的音楽表現における身体性を呼気吸気の全プロセスについて考察し、マルチメディア表現における音楽の特性を芸術の息吹として具現化することを目的とする。


II. 研究概要
 本研究ではすべての呼吸運動を音響化することを特徴とする<笙>独特の演奏法に着目し、笙演奏家としての経験に基づいて伝統的演奏表現における身体性を呼吸の側面から考察する。そこで、独自の<全呼吸センサー>を開発し、笙の演奏を中心にさまざまな音楽表現のケースについて実験検証する。この研究の展開として歌唱、楽器演奏、他の身体芸術における呼吸の技法を検証し、呼吸と表現効果の関連性について考察する。
 さらに、コンピュータを共通表現媒体(インター・メディア)と位置づけ、音楽を中心とした芸術の有機性をパフォーマンスとセンサーテクノロジーの融合による空間音響合成、画像合成をもってダイナミックに拡張し、<呼吸するメディア>としての総合芸術を展開する。


III.全呼吸センサーの研究開発
 本研究では長嶋洋一氏(静岡文化芸術大学助教授)との共同プロジェクトとしてオリジナル呼吸センサーを開発した。
 音楽における呼吸の重要性は歌唱や管楽器における発音と直接結びつくことで様々に研究され、電子楽器に於いてもこれ利用した既存の製品が存在する。これらは一般にブレスコントローラーの名称で呼ばれ、実際には<呼気>のみを対象としている。しかし、音楽表現の身体性にかかわる根元的な情報は呼吸の全サイクルに起因するものであり、<吸気>の状態をも客観化するアプローチは重要である。
 呼気吸気の両面から演奏情報を客観化する呼吸センサーの開発は、他に類を見ない取り組みであり、音楽表現と身体性を結びつける基礎研究としての普遍性を備えるとともに、感性情報処理研究分野における音楽表現の科学的な検証および、新たな音楽表現拡張への可能性を秘めている。
また、コンピュータ援用のマルチメディア・パフォーマンスにおけるインターフェイスの開発は舞台表現の拡張にとって要となるテーマである。
ここでは、主に、雅楽器<笙>に独特の発音機構に注目し、演奏時における呼吸を情報化し、音響効果とともに表れる表現の軌跡を検証した。
本研究の一部は長嶋洋一とともにICMC(International Computer Music Conference)1999北京大会にて発表し、入選論文集に収められている。「It's SHO timeモ---An Interactive Enviroment for SHO(Sheng) 」
また、「Sho Sensor」につづく、「筋収縮センサー」は舞踏家の呼吸を胸筋の収縮を用いて情報化し、コントローラーとする目的で開発され、両センサーは以下の舞台公演にて実践的応用成果を上げている。


IV. 総括と展望
 芸術表現における呼吸の重要性はあらゆる分野で認められる。音楽における発音、発声はいうにおよばず、バレエや仕舞、舞踏のような身体芸術はもとより、書や絵画における筆づかいの優は表現者の鍛えられた呼吸にこそ起因する。すなわち、呼吸という身体性の根源に立ち返るとき、あらゆる表現は手法や時代性を越えて同次元の融合が可能である。    
 一方、芸術の媒体(メディア)は技術革新にともなって各時代に開発され、表現者の創意工夫により洗練される存在であり、現代にあっては電子媒体がその必然を担っている。
 本研究における呼吸センサーの開発は、呼気吸気双方を音響化する笙という楽器の特性に端を発し、呼吸の軌跡を音楽表現に応用することを実現した。今後、その精度と分解能を高め、様々な状況に対応したシステムへ展開の可能性が秘められている。これによって、音楽はもとより、舞踏や書、美術工芸にいたるさまざまな芸術表現における肉体とメディアの関与を呼吸の観点から客観化し、メディアのフィードバック効果を科学的に検証、感性情報処理研究の取り組みにも発展することとなろう。
 一方、このような基礎研究にもとづいて、音楽の実践に応用することが表現者としての音楽家の命題である。本事業に関連し公表の機会を経た作品や公演は、上記の目標に向かうプロセスのひとつである。特に、『笙宇宙。~Breathing Media~』公演では伝統に培われた古典的表現技法と、新たなテクノロジーの融合にむけて、普遍性を備えつつさまざまな応用の可能性を秘めた構成・演出をおこなった。今後、構成要素を随時入れ替えることで、常に斬新な舞台表現を試み、洗練する機会を増やしたい。また、センサーパフォーマンスは機材の性能向上とともに、呼吸による音響・映像のコントロールにより柔軟性をもたせ、表現の質の向上を目指すとともに、これに向けた新たな作品の創造が必要である。



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